東京地方裁判所 昭和47年(ワ)1619号 判決 1974年12月25日
原告
杉原茂
右訴訟代理人
武田渉
被告
岩田木材株式会社
右代表者
岩田三郎
右訴訟代理人
岩谷元彰
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者双方の求める裁判
一、原告
(一) 東京地方裁判所昭和四五年(ケ)第八三八号不動産任意競売申立事件について、同裁判所が作成した配当表中債権者たる被告に対する配当額一六一万七、七三三円を取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
(一) 主文と同旨。
第二 原告の請求原因
一、東京地方裁判所は、債権者榊原茂の申立に係る同庁昭和四五年(ケ)第八三八号不動産任意競売申立事件について、被告が抵当権者として金一、三三六万三、三九一円の配当要求をしたのに対し、昭和四二年二月二二日、競売売得金二〇〇万円中競売手続費用と先順位抵当権者の債権額を控除した金一六一万七、七三三円を被告に配当する旨の配当表(売却代金交付計算書)を作成したので、原告は、右同日の配当期日に被告に配当すべき債権全額について異議を申立てたが、被告は原告の異議を正当と認めなかつた。
二、ところで、東京地方裁判所の作成した右配当表によると、被告は、原告所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について、昭和四三年六月一三日設定した訴外有限会社福善木材店(以下「福善」という。)に対する抵当権付準消費貸借上の債権金一、一三六万三、三九一円が存在するものとし、これに対し金一六一万七、七三三円を配当する旨記載されているが、原告は、被告の福善に対する準消費貸借に基づく貸金債権につき債権額一、一三六万三、三九一円を担保するため、原告所有の本件建物に抵当権を設定したことも福善が被告に対し金一、一三六万三、三九一円の債務を負担したこともないから、右抵当権の被担保債権が金一、一三六万三、三九一円とする被告の配当要求に対し、前記のとおり配当することは不当であり、右配当表の記載部分は取消されるべきである。
三、すなわち、原告が代表取締役をしていた福善が昭和四三年四月頃倒産したが、その第一回の債権者委員会において、原告は、債権者らに対し、福善の残余財産と原告個人の処分可能な財産でもつて債務を弁済するがその余の債務は免除されたい旨申入れたところ、債権者らはこれを了解したので、原告の実印と福善の代表者印を債権者らに交付した。ところが第二回の債権者委員会において、原告は、債権者らから、原告所有の本件建物に対して債権全額について抵当権を設定するよう求められたが、本件建物には原告の家族らが居住していて原告の生活上必要不可欠であつたためこれを拒絶したところ、債権者らは、原告を激しく非難して詰め寄り険悪な空気となり、原告にとつて精神的圧迫に耐えられなくなつたので、やむなく債権者委員長である被告らが作成持参した準消費貸借ならびに抵当権設定契約書に署名して交付したところ、被告らは、原告に無断で先に原告から交付を受けて預り保管中の原告の実印と福善の代表者印をその名下に押捺して準消費貸借ならびに抵当権設定契約書を作成し、これに基づき、原告所有の本件建物について東京法務局墨田出張所昭和四三年六月一三日受付第二二一六九号をもつて抵当権設定登記をなしたものである。したがつて、本件抵当権の設定契約は、原告の窮迫に乗じてなされたもので原告の真意に基づくものでないから、無効である。
四、さらに、被告は、原告の本件建物により担保される福善に対する準消費貸借上の債権が金一、一三六万三、三九一円である旨主張して配当要求をしているがそのような債権は存在しない。
すなわち、仮に被告が主張する本件抵当権設定契約が有効に成立しているとしても、原告は、第一回の債権者委員会の席上、福善に対する債権者らに対し、(イ)福善が訴外東建工業株式会社外一名に対する東京地方裁判所昭和四二年(ヨ)第七八二号有体動産仮処分申請事件の保証として供託した保証金五〇万円の取戻請求権、(ロ)原告が訴外小野塚喜作所有の千葉市生実町一六七九番の五宅地一五〇坪について有する借地権(金四五〇万円相当)、(ハ)福善の残余木材(金二八〇万円相当)と計算事務器(金三五万円相当)を債務の支払に代えて提供したものであり、その余の債務についてはすでに主張のとおり免除を受けたのであるから、福善に対する債権者らの債権は存在しない。
また、被告は、昭和四三年四月下旬頃別紙債権目録番号2ないし26記載の債権者である訴外誠和木材株式会社外二四名から合計金九三六万七、一〇九円の債権を譲受け福善の承諾も得ている旨主張しているが、番号5の西田木材店の債権金七二万七、六二四円については昭和四三年三月一五日に内金二八万六、九九〇円を弁済し、番号7の株式会社前山銘木店の債権金四一万一、一三〇円については同会社が昭和四三年五月中旬頃債権放棄し、番号11の株式会社藤谷木廠の債権金二二万九、八六二円については同会社は昭和四三年五月中旬頃債権放棄し、番号15の東京木材市場株式会社の債権金二万五、二〇〇円については福善の同会社に対する同額の保証金と相殺し、番号16の株式会社中川商店の債権金一五四万一、五四三円については別件の訴訟において全額弁済し、番号18の有限会社中沢工務店の債権金一三〇万円については福善の同会社に対する同額の約束手形債権と相殺し、番号19の諏訪物産株式会社の債権金三〇万円、番号20のヤマキベニヤ株式会社の債権一一三万七、一四〇円、番号22のユニバーサル石油株式会社の債権金一六万八、九二八円については、いずれも右債権者らにおいて昭和四三年五月中旬頃債権放棄し、番号26の山下直勝の債権金八万六、三九二円は福善に対する債権でなく原告個人に対する債権であるから、結局被告主張のごとき債権は存在しないという外ない。
五、仮に、原告の前記主張がいずれも認められないとしても、被告の主張する債権はいずれも福善に対する売掛代金債権であるところ、被告が昭和四七年二月一六日の債権届出をしたときは、すでに弁済期日かあるいは福善の債務承認の日である昭和四三年六月三日から二年を経過しているから、福善の被告に対する債務は時効によつて消滅しており、右債務の物上保証人たる原告は昭和四九年九月一三日の本件口頭弁論期日において右時効を援用した。
六、また、仮に被告主張のごとく、被告は、昭和四三年四月下旬頃訴外誠和木材株式会社外二四名から債権譲渡を受けたとしても、右債権譲渡は、訴訟行為(競売手続への参加・配当要求)を主たる目的としてなされたものであるから、信託法一一条に違反し無効であるというべきである。
七、よつて、原告は、東京地方裁判所が前記競売事件について作成した配当表のうち被告に対する配当部分の取消を求める。
第三 請求原因に対する被告の答弁・主張
一、請求原因第一項の事実は認める。
二、同第二項の事実中、原告主張の配当表には、その主張のごとく被告が原告所有の本件建物について抵当権付債権金一、一三六万三、三九一円が存在するものとし、これに対し金一六一万七、三三三円を配当する旨記載されていることは認めるが、同項のその余の事実は否認し、同項の主張は争う。
三、同第三項の事実中、原告所有の本件建物について原告主張のごとき内容の抵当権設定登記がなされていることは認めるが、同項のその余の事実は否認し、同項の主張は争う。
四、同第四項の事実中、被告は、昭和四三年四月下旬頃福善の承諾を得て訴外誠和木材株式会社外二四名から合計金九三六万七、一〇九円の債権を譲受けたと主張していることは認めるが、同項のその余の事実は否認する。
五、同第五項の事実は否認し、同項の主張は争う。
被告の主張する本件債権金一、一三六万三、三九一円はもともと福善に対する木材等の売掛代金債権であつたが、昭和四三年六月三日、被告と福善との間において、福善の被告に対する右債務をもつて消費貸借の目的とするいわゆる準消費貸借契約を締結したのであるから、右準消費貸借の債権の時効期間は、はやくても昭和四三年六月三日から満五年ないし一〇年というべきであるところ、被告は昭和四七年二月二二日配当要求したものであるから、右債務の消滅時効は中断された。
六、同第六項の事実は否認し、同項の主張は争う。
なお、競売手続において債権届出をすることは信託法一一条にいう「訴訟行為」に該当しないし、仮にそうでないとしても、被告の本件債権の届出は、被告が総債権者の委員長として、事務処理のため必要な手段であるから、訴訟を「主たる目的」とするものということはできない。
七、同第七項の主張は争う。
第四 証拠関係<略>
理由
一原告主張の請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。
二ところで、原告は、原告所有の本件建物につきなされた債権額金一、一三六万三、三九一円の抵当権設定の事実および福善が被告に対して有するとされている右と同額の債務負担の事実を否認し、原告の実印や福善の代表者印の押捺された準消費貸借ならびに抵当権設定契約書は福善の債権者である被告らが原告に無断でこれを冒用し偽造したものである旨主張するのに対し、被告はこれを争うので、まずこの点について判断する。
原告所有の本件建物について原告主張のごとき内容の抵当権設定登記がなされていることは当事者間に争いなく、右事実と<証拠>によると、次の事実を認めることができる。
(一) 原告が代表取締役をしていた福善は、東京都江東区深川森下町で木材の販売業を営んでいたものであるが、昭和四三年四月一〇日東京手形交換所において銀行取引停止処分を受けて倒産した。
(二) 福善は、倒産当時、約二六名の債権者らに対し概算約一、〇〇〇万円の債務を負担していたので、債権者らとその債務の返済方法について協議することになつたが、昭和四三年五月一日に開催された第一回の債権者委員会において原告は、次のとおりの債務返済案を提案した。
(イ) 福善所有の東京都江東区深川森下町の建物に対し金五〇〇万円ないし金一、〇〇〇万円の抵当権を設定する。
(ロ) 残りの債務については別に契約書(念書)を差入れ、原告所有の本件建物に対し抵当権を設定する。
(ハ) 福善所有の在庫木材、千葉県生実町一七六九番五の土地について有する借地権、福善が有体動産仮処分事件の保証として供託した保証金五〇万円その他を現金化して債務の弁済に充当する。
(三) 他方、債権者らは、いずれも福善に対する債権の届出をしたところ、その債権額は別紙債権目録番号1ないし26記載のとおり合計金一、一三六万三、三九一円となつたが、被告の債権が最も多額であつたため、第一回の債権者委員会の席上被告会社の代表取締役岩田三郎を債権者委員会の委員長に選出した。そこでその後は右岩田が中心となつて原告と交渉するとともに債権者委員会もその後二、三回開催されたが、昭和四三年五月中旬頃の第二回債権者委員会において、債権者らと福善および原告との間に次のとおりの合意が成立した。
(イ) 福善所有の建物にはすでに多数の先順位抵当権が設定され担保価値が低いため、原告所有の本件建物に対し債権全額についての抵当権を設定するとともに原告は債権全額について連帯保証する。
(ロ) 債権回収のため福善または原告所有の財産を処分することとするが、それに要する費用は福善または原告の負担とする。
(ハ) 将来債権者らに返済される金員はまず遅延損害金からさきに充当する。
(四) ところで、福善に対する債権額は債権者らの届出によつて合計金一、一三六万三、三九一円であることが確定したが、その債権者は被告を含めて合計二六名であつたから、原告が本件建物について債権者二六名に対するそれぞれの債権額に応じた抵当権を設定しあるいは債権者らが共同で残余財産の処分や売得代金の配当等の清算手続にあたることは煩雑となるのみならず、多額の費用の支出と不必要な時間を浪費することとなるため、各債権者らは、昭和四三年五月中旬頃、福善の承諾も得て、大口債権者である被告に債権をそれぞれ譲渡した上、被告が福善との間に譲渡を受けた売掛債権を消費貸借の目的とする準消費貸借契約を締結するとともに原告所有の本件建物について抵当権を設定することとなつたため、昭和四三年六月三日被告は福善との間に右の趣旨を内容とする準消費貸借契約を締結するとともに原告との間に債権額金一、一三六万三、三九一円、利息日歩三銭、損害金日歩五銭とする抵当権設定契約を締結し、東京法務局墨田出張所昭和四三年六月一三日受付第二二一六九号をもつて抵当権設定登記手続をした。
<証拠判断省略>
右認定の事実によれば、原告と被告間において本件建物について昭和四三年六月三日に設定され、同年同月一三日に登記を経由した抵当権は有効に成立したものとみるべきである。
三そこで、有効に成立した本件抵当権により担保される被告の福善に対する債権額について判断する。
まず、福善に対する債権者らの届出債権額は、合計金一、一三六万三、三九一円であつたことは前記認定のとおりであるところ、被告は、福善に対する債権者らに対し、仮処分の保証金五〇万円の取戻請求権、借地権(金四五〇万円相当)、残余木材(金二八〇万円相当)、備品(金三五万円相当)を債務の弁済に代えて提供した際、その余の債務について免除を受けたと主張するので、検討するに、<証拠>によると、被告は、福善から売却のため預つた残余木材を昭和四三年五月六日頃訴外誠和木材株式会社に代金一〇万円で売渡したこと、昭和四四年頃福善が訴外東建工株式会社外一名に対する東京地方裁判所昭和四二年(ヨ)第七八二号仮処分申請事件について保証として供託した金五〇万円の担保につき担保権者の同意を得て取戻したこと、原告および福善と訴外小野塚喜作との間で係争中であつた千葉市生実町一六七九番の五宅地一五〇坪の明渡訴訟について、昭和四四年一二月二日東京地方裁判所において、原告と福善は右土地について何らの使用権原のないことを確認した上右地上に存する原告所有の建物を右小野塚に代金五〇万円で売渡す旨の和解が成立し右五〇万円をその頃被告が原告に代つて受取つたこと、被告は、昭和四三年五月頃福善から電動計算器二台を売却のため預つたことがそれぞれ認められるが、それによつて、福善の被告に対するその余の債務全額について免除を受けたとの主張に副う原告本人の供述部分は、前掲<証拠>に対比して軽々に信を措き難く、他に原告主張の債務免除の事実を認めるに足りる証拠はない。
なお被告は、前示とおり木材の売却、保証金の取戻し、和解金の支払によつて合計金一一〇万円の金員を受領したが、<証拠>によると、被告は右金員のうちから残余木材の運搬賃として金一万五、〇〇〇円、福善の訴外東建工株式会社外一名に対する仮処分事件および福善と訴外小野塚喜作間の訴訟を担当した弁護士馬場正夫に対し、手数料・報酬として金一五万円をそれぞれ支払つたことが認められるから、残額は金九三万五、〇〇〇円となるが、これは、前記の合意に基づき被告の福善に対する債権一、一三六万三、三九一円に対する約定利率日歩五銭の割合による遅延損害金に充当されたものというべきである。
次に、原告は、別紙債権目録番号5の債権については、その後内金二八万六、九九〇円を弁済し、番号15の債権については福善の東京木材市場株式会社に対する右債権と同額の保証金と相殺し、番号16の債権については別途全額弁済し、番号18の債権については福善の有限会社中沢工務店に対する約束手形債権と相殺したと主張するが、原告本人の供述ではいまだ原告の右主張事実を証するに十分なものといい難く、また原告は、同目録番号7、11、19、20、22の各債権については各債権者らがいずれも昭和四三年五月中旬頃債権放棄したと主張するが、これに副う原告本人の供述は、<証拠>に照らしにわかに信用し難く、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。
してみると、本件抵当権によつて担保される被告の福善に対する債権額は合計金一、一三六万三、三九一円であるといわねばならない。
四進んで、原告の消滅時効の主張について判断するに、弁論の全趣旨によれば、福善に対する債権者らの債権は、別紙債権目録番号26を除いていずれも民法一七三条一号にいわゆる生産者、卸売商人および小売商人の商品売掛代金債権であると窺われるが、本件抵当権によつて担保される債権は、すでに判示したとおり、被告が福善に対して有していた売掛代金債権と被告が福善の債権者らから譲受けた債権金一、一三六万三、三九一円をもつて消費貸借の目的とする昭和四三年六月三日付の準消費貸借契約に基づくものというべきところ、被告は株式会社であり福善は有限会社であつていずれも商人であることは明らかである、右準消費貸借契約も特段の事情のない限り営業のためにする行為と推定すべく、したがつて、準消費貸借契約によつて生じた債権の時効は五年であると解するのが相当である。
しかして、被告の消滅時効中断の主張について案ずるに、他人のなす任意競売手続に参加して配当要求する場合は、担保権の存在を公の手続を通じて確証しその債権の満足をはかる手続であるから、民法一四七条所定の「請求」あるいは「差押」に準じて時効中断の効力を生ずるものと解するのが相当であるところ、被告は、昭和四七年二月二二日頃東京地方裁判所に対し、債権者榊原茂の申立に係る同庁昭和四五年(ケ)第八三八号不動産任意競売申立事件について、抵当債権者として金一、一三六万三、三九一円の配当要求をなしたことは当事者間に争いないから、被告の福善に対する債権の消滅時効は、右配当要求によつて、中断されたものといわねばならない。
五さらに、原告の信託法違反の主張について判断するに、およそ、信託法一一条は、本来の権利者から権利の移転の名において第三者に訴訟をなす権能を任意的に付与するいわゆる任意的訴訟信託を広く許容すると、民事訴訟法が訴訟代理人を原則として弁護士に限定している趣旨を潜脱し、他人の紛争に介入し不当に利益を貪るがごとき濫訴の弊害を招来するおそれがあるから、これを原則として禁止しようとするものであるといいうるが、任意的訴訟信託もわが実定法上全面的に禁止されているものと解する必要がないのであつて、訴訟信託といえども、弁護士代理の原則の精神に牴触せず、また濫訴の弊害を招来するおそれがなく、かつこれを認めるに合理的必要がある場合には、これが許容さるべきものと解すべである。そして、倒産会社においてしばしば設けられる債権者委員会は、裁判所に対する和議・会社整理・会社更生もしくは清算・破産等の法律的手続をとることなしに、債務者との話合いのもとに、倒産会社の法律関係の整理決済、財産の処分、残余財産の分配、債務の弁済等を行うことによつて会社の再建もしくは清算を図ることを主たる目的とする私的な団体であつて、多数債権者の利益の擁護、債権者間の公平あるいは会社の再建をはかるために債務者その他の利害関係人と交渉協議し会社の状況に応じた再建案もしくは整理・清算案の提出・確定もしくは実施にあたるものであるが、費用の節減、手続の単純化、再建もしくは清算手続完了までの期間短縮等の必要から、債権者間の合意に基づいて、債権者委員会の委員長を選出し、委員長所属の会社に債権を譲渡するなどして、委員長に自己の会社名で任意的な再建もしくは清算手続を遂行し、法的な強制執行・任意競売の申立、配当加入を行う権限が授与されている場合には、その必要性と権利の譲渡人と譲受人の関係すなわちかかる委員長が「共同の利益を有する多数の者」の中から選出されていること等の諸事情に鑑み、委員長所属の会社に対する債権者のこのような権限の授与は、弁護士代理の原則を回避し、または濫訴の弊害を招来するものとはいえず、特段の事情のない限り、合理的な必要があるものとして、これを許容して妨げないものと解するのが相当である。
そこで、以上の観点に立つて本件をみるに、前示認定の事実関係によれば、倒産した福善の債権者委員会において、債権者間の合意に基づいて、各債権者から債権の譲渡を受けて自己の名で残余財産の売却、任意競売手続での配当要求、債権者への配当等の権限を与えられた被告は、任意競売手続における配当要求が、信託法一一条にいう「訴訟行為」に該当するか否かを論ずるまでもなく、本件任意競売手続につき自己の名で、配当要求をなす権限を有するものと解するのが相当である。したがつて、この点に関する原告の主張は採用することができない。
七ママ してみると、原告所有の本件建物を競売目的物件とする当庁昭和四五年(ケ)第八三八号不動産任意競売事件の配当手続において、被告は抵当権者として金一、一三六万三、三九一円の配当要求をなす権利があり、これに対し配当裁判所が本件建物の競売代金二〇〇万円からこれに先だつて手続費用と先順位抵当権者の債権額を控除した金一六一万七、七三三円を被告に配当する旨の配当表を作成したのは正当であり、原告のこれに対する異議は失当として排斥されるを免れない。
よつて、原告の本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(塩崎勤)
物件目録<省略>